都市と循環EX:2025
[京都:日本]
未来的思考から「都市と循環」を考える特別イベントを京都市と共催。
体験と交流をテーマにした会場は熱気に包まれていた。
Voice : Voice:東京R不動産 / 株式会社OpenA代表 馬場正尊氏
循環へのシフト
私たちR不動産は、東京を起点に京都・福岡・大阪などで活動しています。都市の中にある古い建物や面白い建物を発見し、その価値を正しく伝え、使いたい・住みたい人につなげる。あるいは、建物のリノベーションやデザインを手がけることを仕事にしてきました。
20年以上続けてきて感じるのは、個別の建築再生だけでなく、もっと都市全体へと視野を広げるべきフェーズに入ったということです。時代が次のモードに移り変わろうとしている気配があって、それをつかみ取るため、そして僕たちだけでなく「みんなで考えるきっかけ」をつくるために「都市と循環」というテーマのフェスティバルを始めました。フェスティバルと銘打ってはいますが、実質は会議であり、共に思考する場であり、ここから具体的なプロジェクトやビジネスが生まれる可能性もある“定義を固めない運動体”です。
昨年のディスカッションで印象的だったのは、20年前の東京では「リサイクル」「リノベーション」のようなRの頭文字で語られるキーワードだったのに、今は「サーキュラーエコノミー」など循環に関する概念へシフトしていることでした。僕らが掴みかけている時代の変化とは、この“次のモード”なのだと改めて感じました。
京都で開催した意味
京都開催には現実的な理由と抽象的な理由の両方があります。まず、来やすく、訪れたいと思わせる街であること。そして、昨年の会場となった梅小路エリアには市場や操車場、水族館などが混ざり合い、“サブ京都”的な余白が残っている。僕らが好きなタイプの場所で、魅力的な空き物件も多く、フィールドとして面白かった。
さらに今回は、京都市長の松井さんを交えて議論したことで、京都で開催する意味をより実感しました。京都は千年以上の歴史のなかで戦乱や政治など様々なものに曝されながら、それでも循環し続けてきた都市です。伝統を継承しつつ、ベンチャー企業も多く、新しいものを受け入れる懐の深さがある。冷静に見ると、京都こそ最もダイナミックに循環してきた都市なのではないかと思います。
加えて、市長が語った「政策は計画ではなく問いである」という姿勢も興味深かった。抽象的な都市像を示し、市民や事業者に「あなたは何ができますか?」と問いかける政策。その姿勢が「都市と循環」が目指す“次を考える場”と非常にシンクロしていて、テンションが上がりました。
今年得た手応え
昨年は「建築と循環」「農と循環」「流域と循環」などテーマを並べ、個別の議論を標本のように積み上げていくスタイルでした。
しかし今年は、京都という具体的なフィールドを題材にしたことで、複数の分野が横断的に結びつき、思考がより具体的に展開し始めたと感じます。例えば「建築と農業と循環」と考えると、“植物が育つ建築”などダイナミックな発想が自然と湧いてくる。これは新たな展開の手がかりです。
また、ヒューマンルネッサンス研究所の中間真一さんからSINIC理論の話(最適化 → 自律 → 自然へとスパイラルアップする概念)を聞けたことも大きかった。私たちのこれまでの活動は“最適化”に近く、古い物件を再生し、誰かに手渡してきた。そして次に目指すべきは“自律”なのかもしれないという気づきを得ました。
身近な例では、神戸R不動産の小泉が午前は農業、午後は不動産の仕事をするという生活をしている。これは二項対立ではなく、自然に循環的な暮らしを実践している一例で、まさにスパイラルアップのモデルケースです。
新しい都市の姿とは
私が最近感じているのは「都市と自然が新しい関係を結び始めている」ということです。かつては対立するものとして捉えられていた都市と自然が、テクノロジーなども取り入れながら融合しつつある。昨年『PARKnize ─ 公園化する都市』という本を書きましたが、自然回帰でもノスタルジーでもなく、もっと新しい都市の姿を考えています。
アスファルトに覆われた都市から、自然が介入しつつも快適で便利で、都市の中で農業も行われるような、じわっと融合した新しい風景。都市と循環の活動は、その未来像を手探りでつかみに行くプロセスだと思っています。
「都市と循環」の次のチャレンジは、来年の開催にむけて既に動きはじめています。新しい発想、新しい都市像に興味がある人、何かを始めたい人、仲間を探したい人にはぜひ来てほしい。ここには、まだ誰も見たことのない未来を一緒に考えられる余白があります。