サーキュラー建築の複合施設
[アムステルダム:オランダ]
オランダのメガバンクABN AMROが手掛けた次世代複合施設。
サーキュラーデザインを建築に取り入れた、地域のオープンプラットフォーム。
Voice : Cie. 建築家 / ハンス・ハミンク氏
銀行の手掛ける施設がサーキュラーデザインになった背景
最初は慣習的なデザインになる予定で始めたのですが、しばらくしてクライアント(ABN AMRO)から、もっとサスティナブルなデザインにしたいと申し入れがありました。それを聞いて、僕らも非常に熱意がみなぎりました。一般的な建物の作り方、デザインの仕方とは違うものですから、クライアントの考えの変化をこちらも非常に嬉しく思い、受け入れました。しかしながら、完璧なサスティナブルデザインに変更するのに十分な時間がなかったのです。しかしクライアントは、「完全にサスティナブルなものにしたいのだ」と。私たちは、それならばサーキュラーデザインにしてはどうかと提案しました。それから様々な報告書をクライアントに提出しました。その甲斐あってクライアントもサーキュラーデザインに興味を示し、このプロジェクトが始まったのです。
社会的に重要な意味を持つ、建築分野におけるサーキュラリティ(循環性)
これは気候変動や気温上昇の問題が関係しています。ビルの建設や建築で用いる材料は、非常に多くのCO2を排出してしまう副作用があります。それは気温の上昇にも深く関わる問題で、私たちはできるだけ少ない材料でビルの建設を行い、CO2の排出を最小限に抑えたかったのです。それゆえ、建築材料にとても気を遣いました。それはとても賢明なことだと思っています。人類の寿命を長く保たせたいのならば、できるだけ少ない材料で作る方が良いのです。建築業界にとっても昨今の気候変動は無視できない問題で、銀行にとってもそれは同じです。銀行が関わる市場やビジネスの未来は、全てがその問題と大きく関わっているのです。そして彼らはそれにいち早く気づき、今ある問題に対して適切に対応した、というわけです。
建物自体の寿命も延ばせる、バイオ素材の活用
CIRCL(サークル)のメインの特徴は、バイオ素材を最大限に使用したところです。バイオ素材は植えることもできますし、それを刈っても再び植えることができます。つまり理論的には、その原料は無限に手に入れることができるのです。もう一つは部品の組み立て方です。組み立て方を工夫することにより、将来的に建物を解体したとしても、部品自体のダメージがないまま再び組み立て直すことが可能です。建物自体の寿命もそれにより延ばすことができるのです。
苦労した材料探しから生まれた再利用インテリアの数々
私たちがCIRCLの設計・施工をしたときは、サーキュラー建築はまだ非常に初期の段階にありました。それゆえ、材料を探すのにとても苦労したのです。使用済み素材ですら探すのが困難でした。メインの建物や外のエリアに使うものなど、とにかく部品を集めるためにあらゆる場所を探しました。集めた使用済み素材は、各場所に最適な活かし方をしています。内装のパーテーションの壁や床も全て使用済みの木材です。始めは素材がなかなか見つからず苦労したので、使える使用済み素材を見つけられたときはとにかくありがたい気持ちでした。
銀行の職員たちの使わなくなったジーンズでできた天井
建物に入ったらまず天井を見上げてみてほしいです。上を見上げると、青い素材が目に入りますが、それはリサイクルしたジーンズで作った防音材なのです。この建物で働く人たちが使わなくなったジーンズを集めて作りました。そんなところも、この建物が非常に面白く、特別なものになった理由ですね。建物に関わる要素の全てにストーリーがあるのです。
人々が集うよう設計された、ビジネス街の新たな環境
CIRCLはビジネス街に建っています。アムステルダム有数のビジネス街という環境にこのような建物があるということがまず面白い点ですね。他のオフィスビルとは全く異なる雰囲気を持っています。寛ぎがあり、形式張っていません。CIRCLは全ての人々に向けた建物です。子どもや学生、その地区に住んでいる人々、その地区で働いている人々、全ての人の出会いの場になればと思っています。意図的に人々の出会いの場となるように作られた、オープンプラットフォームでもあるのです。クライアントもそのように使ってくれているようでとても嬉しいです。子ども向けのイベントを開いたり、映画を観たり、討論会や打ち合わせをするなど、さまざまなイベントを開催しています。
建物内にはサーキュラーフードを食べられるとても良いレストランがありますから、人々はゆったり座って、肉や魚の産地、地元で収穫した植物の話など料理のストーリーを聞いて楽しむのです。
循環型プロジェクトをまとめた循環型の本
私たちはこの2、3年のあいだ、いくつかのCIRCLプロジェクトに関わり、たくさんのことを学びました。私たちが得た知識を同業者やもっと多くの人々に知ってもらうことで、近い将来、このような循環型プロジェクトがごく一般的になるようにと思い、本に書き残すことに決めたのです。本自体も循環型製品になっています。使用した紙や厚紙は再生紙で、インクも再生品を使っています。本のカバーには自分たちが昔製図を描いたときの紙を使用しました。この本は6冊作りましたが、6冊全て違うものになっています。循環性が、ユニークな製品の誕生に繋がったのです。
私たちが願うのは、この本が人々にインスピレーションを与え、循環型のプロジェクトを実行する際の手助けになることです。そして私たちがお願いしたいのは、この本を2ヶ月手元に置いたら、そのあとは他の人に渡してほしいということ。そんなことをする人はいないかもしれませんが、そうするようにお願いしています。また、この本は6冊しかありませんが、世界中の人に見てもらえるように無料でPDFをダウンロードできるようになっています。
面白がって突き詰めると、上質なものができあがる
CIRCLプロジェクトを終えて皆さんに伝えたいことは、サーキュラリティ(循環性)というのは地球環境において必要であるだけでなく、面白いものを作るチャンスでもあるということです。だから、これを何かの課題や任務だと捉えるのではなく、いろんな素材を組み合わせて面白いものを作る絶好の機会なんだという風に捉えてもらいたいと思います。そのように正しい方法で様々な素材を組み合わせてできた建物は、非常に上質なものに仕上がります。建築家としてこれほど面白いことはないですね。
サーキュラリティ(循環性)を理解し受け入れ、素材やデザインなど折り合いをつけながら違うアプローチで進めるということが、今後は当たり前の光景になっていきます。近い将来なのか、もう少し先なのかわかりませんが、このようなやり方が当たり前になっていくのです。だから私のアドバイスとしては、必要性という部分よりも、現実を受け入れ、適応し、インスピレーションを見つける努力をするということ。サーキュラー建築の仕事は、私の経験で言えば、とっても楽しいですよ。