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廃棄物ゼロを目指す、循環型ジーンズブランド

[アムステルダム:オランダ]

買わずに借りて、使用後は返却する画期的ジーンズ。
100%リサイクルデニムに挑む、ファッション業界の先駆者。

Voice : MUD Jeans CSRマネージャー/ラウラ・フィカリア氏

サスティナブル課題を多く持つファッション業界に、革命を起こす

ファッション業界における最大の問題は、服の過剰消費と過剰生産であることは周知の事実です。つまり、この巨大なファストファッション産業は、大量のCO2と地球規模の排出物を生み出し、その結果、気候変動問題に対して大きな責任を負っているのです。解決策はシステムを変えること、そしてMUD Jeansです。私たちはサーキュラーデニム(循環型デニム)を作りました。それは、ファストファッション業界に代わる、美しくセクシーなジーンズをサーキュラー(循環型)方式で作ることが可能である、ということの実証です。私たちMUD Jeansがジーンズを通して本当にしたいことは、ファッション業界に革命を起こすことなのです。

創業者のバード・ファン・ソンは、業界の慣習に代わるものを作るという明確なビジョンを持って、2013年にMUD Jeansを立ち上げました。MUD Jeansを立ち上げる前、彼は既に10年以上ファッション業界に身を置き、幾度となくファッション産業における環境的・社会的な暗い影を見てきたのです。ファッション産業を変えるには、みんなのワードローブに必ずあるものから変えていく必要がある。ファッションが好きな人もそうでない人も誰もが一着は持っているジーンズ。そのジーンズに特化した循環型ブランドを構築することで、この変化を実証しようと考えたのです。

そして、私たちは2つの重要な疑問が浮かびました。1つは、その人が使い終わったジーンズをどうやって返却してもらうか。そして、そのジーンズの所有者はお客様でなければならないのか、ということです。この2つの疑問から、MUD Jeansのアイデアが生まれました。ジーンズをリースするというコンセプトで、お客様に新しいジーンズの体験を提供する。それは新しい商品を手に入れることへの環境的な不安をなくすことにつながります。もちろん、ビジネスとして私たちは製品の寿命を全うし、それをリサイクルして新しいジーンズに戻すという責任を負っています。

 

MUD Jeansが作るサーキュラージーンズの特徴

MUD Jeansの商品的な特徴は、まず生地です。GOTS認証のオーガニックコットンを使って糸を作り、その糸を染めてから生地を作ります。23〜40%の再生リサイクルコットンとGOTS認証のオーガニックコットンの組み合わせで作られています。これはとてもユニークで、特に私たちがサーキュラー(循環型)デニムブランドであることから、循環できるように製品をデザインする必要があるため、このような作りになっているのです。異素材をミックスしてしまうと最終的にリサイクルできなくなるので、ここがMUD Jeansの大きな特徴です。また、他のデザイン面でも、例えばMUD Jeansのラベルは一般的なレザーパッチではなく、プリントされています。なぜこのような仕様にしたのか。まず、革は動物性なので使いたくありません。そして、リサイクルできない廃棄物になるような材料やリサイクルに影響を与えるような素材を増やしたくないからです。私たちは、このジーンズのできるだけ多くの部分をリサイクルしたいのです。それらの理由から、ラベルはデニムに直接プリントを施すという解決策を思いつきました。その他の特徴としては、例えばボタンやリベットは特定のものだけを使用し、シンプルでミニマムなデザインにしています。これらは取り外した後にリサイクルできるように、ステンレススチールで作られています。また、MUD Jeansは業界標準と比較して、水の消費量を93%、CO2の消費量を74%削減しています。これは非常に素晴らしいことです。さらに生物多様性においては、業界標準と比較してその影響が51%低くなっています。

 

古いジーンズで新品を生む、リサイクル循環のプロセス

MUD Jeansは循環型デニムブランドとして、古いジーンズから新しいジーンズを作っています。ジーンズは、GOTS認証のオーガニックコットンと23〜40%の再生リサイクルコットンの組み合わせで作られています。どのようなプロセスで循環させるかというと、まずジーンズを販売またはリースします。私たちのお店(リースショップ)もありますが、売上のほとんどはオンラインで、小売業者や他のブランドやショップと一緒に販売しています。お客様がそのジーンズを使い終わったら、送り返してもらうように促します。そして、そのジーンズの状態が良ければ、私たちのヴィンテージコレクションの一部となります。ジーンズを洗って、必要であれば直して、再びヴィンテージ商品として販売するのです。そうすることで、商品の寿命を延ばし、環境への負荷を下げています。そのようにして、完全に履きつぶされたジーンズが最終的に私たちのところに戻ってくる。それらをすべて回収してリサイクルに回すのです。

リサイクルはどのように行うか。ジーンズはスペインの“Recover”という施設に送られます。そこでは、ボタン、ファスナー、ラベルを取り外し、残ったものをすべてリサイクルするという、最新鋭の機械を導入しています。リサイクルの工程は、ジーンズを裁断し細かくして、最終的には繊維にします。これをGOTS認証のオーガニックコットンとブレンドしています。実はこれ、既に未使用のコットンが少し入っているんですね。そして、これを紡いで糸にし、その糸をインディゴカラーに染めて、生地ができあがります。このようにして、私たちのジーンズは何度も何度も繰り返し使われるのです。

回収するのは私たちのブランドのジーンズだけではありません。他のブランドのジーンズでも96%以上が綿素材であれば回収を受け付けています。ジーンズを返却してくださったお客様には次の利用時に割引が適用される仕組みです。なぜ96%以上の綿でできてなければならないかというと、ポリウレタンや他の素材が混ざっていると繊維が汚染されてしまう恐れがあるためです。

 

認証コットンの使用にこだわる理由

MUD Jeansは小さな会社なので、すべてのサプライヤーを管理することはできませんが、製品に使われる素材の正しい社会環境基準を確保するために、私たちは認証に多くを頼っています。しかし私たちは選り好みするので、MUD JeansはGOTS認証のオーガニックコットンのみを使用しています。なぜかというと、私たちが購入するコットンの70%以上がオーガニックであることが保証されているだけでなく、環境、化学、そして社会的な面でも非常に厳しい規則が守られているからです。そのため、農家にとって公正で良好な労働条件と適正な賃金が保証されており、私たちにとってもそれはとても重要なことだからです。コットンは年々値段が上がっており、特に今年は高いです。オーガニックコットンも高価ですが、それよりもリサイクルコットンはもっともっと高価です。

 

革新的な染色技術を採用し、水をほぼ100%節約

私たちは染色に関してもサスティナブルで、C2C認証※を受けた染色方法で染色を行なっています。私たちのサプライヤーであるTejidos Royo(テヒドス・ロヨ社)は”Foam Dyeing”(泡染色)という、水の消費を99%削減、化学薬品は89%、そしてエネルギーは65%削減できるというデニム産業において驚愕の革新的な新しい染色技術を開発しました。

そのFoam Dyeingという革新的な染色技術を使い、染められています。通常だと糸を7回ほど染料に漬け込む必要があり、その際に大量の水を使用します。しかしFoam Dyeingの技術は、水を全く使用せず、糸に泡を塗りこんで染めていきます。水はほぼ100%節約できます。膨大な量の化学薬品もエネルギーも節約できる染色技術です。

Cradle to Cradle認証:ドイツのハンブルグで1987年に設立されたEPEA(環境保護促進機関)が行っている、グローバル環境認証。従来の生産・消費・廃棄という流れを、生産・消費・生産という持続可能なサイクルにシフトすべく、ベーシック、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの5段階にわかれた認証を行っている。

 

リサイクルコットン40%の壁と100%リサイクルデニムへの道

綿やセルロース系繊維の素材しか使用できない点がまだ難しいところです。私たちのジーンズはポリエステルを2%ほどしか含んでいないものもあります。なぜかというと、ポリエステルの含有量が多くなると繊維が汚染され、リサイクルの際に問題が生じるからです。また、品質も私たちの課題です。リサイクルコットンは、現在では40%までしか使用できません。なぜなら、繊維を細断すると非常に細かな断片となり、それをオーガニックコットンとブレンドすると素材の品質と能力に影響を与えるため、40%以上は使用できないのです。

しかし、私たちは今、サクシオン大学と共同でTech for Futureから資金援助を受けた「Road to 100」という、非常に楽しみなプロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトは、100%再生リサイクルコットン使用のジーンズを作るというものです。そうすればバージン(未使用)コットンの使用をなくすことができ、完全な循環型社会への大きな一歩を踏み出すことができるのです。これにより、ジーンズに使用するリサイクルコットンの量を制限する必要がなくなるので、この課題も克服できるのです。

100%リサイクルデニムは現在テスト中で、今年中には最初のサンプルができあがる予定です。そこから次の課題は、再生リサイクルコットン100%で作られたジーンズを実際に作り始められるように、サプライヤーに提供するためのスケーラビリティをどうやって確保するか、ということです。これが実現すれば、私たちはこの方法でジーンズを作った世界初の企業となるのです。

 

サプライチェーンも含め、環境的・社会的にクリーンであること

MUD Jeansは社会的な観点から、行動規範やそれを検証するための監査を確実に実施しています。MUD Jeansのユニークな点はサプライチェーンにもあります。私たちのサプライチェーンは非常に短く、4つのサプライチェーンパートナーで構成されています。そのうち3社はスペインに拠点を置き、ジーンズのリサイクル、糸の製造、生地の製造を行っています。できた生地はチュニジアに輸送され、チュニジアの工場一箇所で、ジーンズの裁断、縫製、洗濯まで行っています。これはデニム業界では非常にめずらしいことです。なぜ社会的な観点が重要なのか。私たちは循環型社会とサステナビリティに対する価値観とビジョンを共有できるサプライヤーを、特に気をつけて選んできました。彼らは環境だけでなく人間をも保護するための技術や設備、ジーンズの製造方法などを熟知しています。実際、先週私はチュニジアの工場を訪れ、皆に会って話をしました。そこで、ジーンズがきちんと環境的にも社会的にも良い方法で作られていることを改めて知り、さらに信頼感が高まりました。

チュニジアの工場はユーステックス・インターナショナルと呼ばれ、そこでジーンズの裁断、縫製、洗濯が行われています。スペインは、ジーンズをリサイクルして新しい繊維を作る場所であり、生地はそこから調達しています。染色技術はスペイン。私たちの工場ではなく、サプライヤーの工場があります。スペインには3つのサプライヤーがいて、実際にジーンズを形にする最終工程はチュニジアのサプライヤーが担当しています。本社がここオランダ、物流パートナーもオランダ、生地の製造はスペイン、最終工程の製造がチュニジア、ということです。

協力してもらう会社の国が近いということもとても大事なことです。これらの工場が近くにあることで、私たちが移動しなければならない距離も非常に短くなりますし、製品の輸送についても、空路ではなく陸路や船路で製品を運ぶようにしているのも理由のひとつです。空路の輸送コストは、他と比べて圧倒的にCO2排出量が多いので、空路を避けてサプライチェーンに運ぶようにしています。

 

北欧からアジア・アメリカにも展開していきたい

私たちの市場の大半は北ヨーロッパです。他の国での販売に興味がないとか、やる気がないということではなく、単に現時点でのブランドの規模の限界があるためです。主な国はドイツ、オランダ、スイス、フランス、スペインです。イギリスは非常に好調でしたが、残念ながらブレグジット(英国のEU離脱)により、その点では課題が残りましたが、何とか取り戻そうと動いているところです。このまま順調に成長していき、世界中で私たちのジーンズが履いてもらえるようになることを願っています。

北欧の人たちはMUD Jeansにとても興味を持ってくれているので、スカンジナビアでも販売しています。ノルウェー、デンマーク、フィンランドもそうです。もちろん、日本にもぜひ行きたいですね。日本はデニム大国ですし、販売もしてみたいです。日本の方はデニムが大好きですから、事業をもっと成長させて、このジーンズを日本の皆さんに知っていただけるようになればと願っています。もし日本で販売するとしたら、販売システムなどをまた新たに構築しなければなりません。販売、返却、リサイクルというシステム全体が成長すればするほど、それが次の課題になると思います。今はヨーロッパを拠点としており、顧客もヨーロッパの人たちなので、特に問題はないですが、アジアやアメリカに進出した場合はどうなるか。そこでも、未来志向のパートナーを探さなければいけませんね。

 

「Road to 100」を実現し、世界に画期的な循環を

今、私たちが最も楽しみにしていることのひとつは、前述した「Road to 100」プロジェクトです。再生リサイクルコットンを100%使用したジーンズを作ろうとサクシオン大学と共同で取り組んでいます。私たちが理想とするのは、再生リサイクルコットンが40%しか使用できない現状を打破し、高品質で丈夫な布地を作ることです。現状の課題に対し解決策も見えています。メカニカルリサイクルと分子リサイクル(ケミカルリサイクル)という2つのリサイクル技術をミックスすることで、この問題を解決することができるのです。100%再生リサイクルコットンでできた布を作れるようになれば、40%の再生リサイクルコットンの制限問題が解決するだけでなく、未加工原料を使用しなくてもよくなることはさらなる循環に向けての大きな一歩になります。また生物多様性の観点から見てもとてもポジティブな機会です。さらに、水の消費やCO2の消費削減にも貢献でき、生物多様性への影響も減らすことができるのです。この良い循環を早く実現したいです。

IKEAの有名なKLIPPANソファと私たちがコラボレーションをして、KLIPPANソファのカバーを古いジーンズから作りました。これは本当に素敵なプロジェクトでした。私たちのジーンズも今IKEAで販売しています。ぜひ探してみてください。