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architecture

水上浮遊型のサスティナブル住宅

[アムステルダム:オランダ]

Schoonschip : Space&Matter | www.spaceandmatter.nl/schoonschip/

自給自足の最先端テクノロジーが詰まった実験都市、Schoonschip。
ゼロからつくった未来の持続可能な住まいがここにある。

Voice : Space&Matter マタイン・ポール氏

金融危機に生まれた、持続可能な社会に挑む建築家集団

12年前、私、Marthijn pool(マタイン・ポール)は、Sascha Glasl(サシャ・グラスル)、Tjeerd Haccou(ティアード・ハコウ)と共に3人でSpace&Matter(スペース&マター)を立ち上げました。私たちはこれまで様々な仕事を経験してきましたが、2009年の金融危機の際に、建築デザインと都市ブランディングのオフィスとして独立することを決めました。
当時、建築家の仕事はなく、投資家は投資せず、デベロッパーは開発せず、自治体でさえ新規開発を中止したため、私たちは立ちすくんでいました。このとき、どこからか手を差し延べられるのを待っていてはダメだと思ったのです。私たちは社会への疑問がいくつも湧いていました。例えば、金融危機でたくさんの建物が空っぽになったのに、なぜ未だに多くの人々が家を探しているのか。この状況にもかかわらず住宅価格は高く、多くの人が家を買えないのは非常にミスマッチなシステムだと思いました。

私たちは創造力と想像力を駆使して、これまでとは異なるシステムを開発し始めました。「Schoonschip(スクーンシップ)」のシステムは、ユーザー同士の強力な自立的グループを生み、自分たちで責任を負い、自らプロジェクトを構築していくものです。通常、投資家・開発者など建設に携わる者は、誰かのために利益を上げることを目的としています。しかし私たちにとっての目的は、手頃な価格で美しく、包括的で持続可能なものを作ることそのものなのです。そしてそれは、12年経ったいまでも私たちの目標です。日々、仕事の仕方や体系的なアプローチを改善し、ツールやプラットフォームの開発、スタートアップの支援など、より包括的で手頃な価格の住宅環境を提案し、持続可能な社会を作ることを目指しています。

Schoonschipを具体的にする仲間との出逢い

事務所を設立して間もない頃、私たちと一緒にプロジェクトに取り組んでくれるパートナーを探していました。そんなある日、北オランダで行われた利権に関する講演で、持続可能な循環型住宅のコンセプトについて話をしました。講演の後、テレビ局のドキュメンタリー制作に携わっている方から「あなたたちは既成概念にとらわれない発想の持ち主ですね。私も以前から、システムで作られるプロジェクトではなく、システムから外れた想像で作られるプロジェクトをやってみたいという夢があったのです」と話しかけられました。「自給自足の生活という水の上での暮らしがしてみたい。水の中で自分たちのエネルギーを作り、自分たちの食べ物を育て、雨水を利用し、太陽を浴びて、そこで独立して自立的に暮らす。消費者で終わるのではなく、生産者にもなる。その繰り返しの中で暮らしたいのです」と。これは個人的なアプローチだと理解していましたが、実際に、このような小さなプロジェクトは複数人で行うほうがたくさんの感性が集まります。そしてご近所同士にそのような機能が持てたら…と想像しました。知識がある人、時間がある人、少しのお金がある人、与えられるものが全く異なるほうが相互関係を持てる。皆で一緒にやれば、様々な人々の才能や専門知識、多くの力が集まります。 そうして10年前、その映像プロデューサーを引き入れ、夢と野心からこのプロジェクトが始まりました。どのように持続可能な戦略を実行するべきか、それは技術、建設、金融にとってどのような意味を持つのかを考えました。その野望を書き起こし、マニフェストを作り、水に浮いた区画はどのようになるのか、目で見て分かるマニフェストも作成しました。自治体に提案をする際、「私たちアムステルダムの住民は、この街に住み続けたい。でも普通の方法ではなく、水の上に住んでみたいんだ」と伝えました。そうして、アムステルダムがその夢を実現できる場所探しを手伝ってくれ、議論が開始されたのです。

エコシステムに必要不可欠なあらゆる循環型ネットワーク

Schoonschipは、環境、社会、財政、そして文化的歴史など、多くの持続可能性を備えたプロジェクトです。まず環境面では、太陽電池付きの屋根と、屋根の断熱材を利用したヒートポンプでエネルギーを生産し、太陽の光を受けて電気を作り、それをバッテリーに蓄え、そのバッテリーがネットワークのように機能して、近隣の人々と1つの送電網を共有します。個々が消費者でもあり生産者でもあるこのネットワークは、常に十分なエネルギーを提供できるほど強力です。さらに、屋根にはたくさんの植物があり、屋根に降った雨水をこの植物にゆっくりと浸透させています。これにより、水の上というブルーな場所に住みながら、とても緑(グリーン)が多い地域になっています。加えて、私たちは木、藁、麻など、できるだけ再生可能なバイオ素材、自然界に還るものを使用することで、CO2排出量を最小限に抑えています。そしてもちろん、社会的持続性についても考えられています。このプロジェクトグループは、皆の知識、才能、時間、そしてお金を使って一緒にプロジェクトを構築していきます。コミュニティの感覚が強いほど、グループ内のソーシャルキャピタルも非常に高いものになります。互いに協力し合い、互いに面倒を見ようとする個人の、非常に寛大なエコシステムです。これはとても強力な社会的ネットワークなのです。

立ちはだかる困難を乗り越えた、強い信念

このプロジェクトを進めるにあたり、いくつもの大きな課題がありました。その中でも特筆すべきは、ルールと規制、そして金融機関についてです。水の上に建築物を建てる場合、水上は陸上よりも不安定なため、ルールや規制が異なります。また、オランダのエネルギー法では建築物を建てる場合、送電網に接続しなければならないという権利問題がありますが、私たちは「送電網に接続するのではなく、自分たちのマイクログリッドを作りたい」と訴えました。マイクログリッドを作って、自分たちがエネルギー会社としてエネルギーを生産し、それを自分たちで消費できるようにすることを許可してもらうために、法律家と交渉しなければならなかったのです。しかし、それは法律違反です。そこで、たくさんの時間とお金、技術を使い、書類を作り、ロビー活動なんかもして進めていきました。最終的には、消費者と生産者が結びつくことでエネルギーの消費量を実感し、エネルギーの生産に意識がいく。これこそが持続可能性を実現するための方法であると、強くアピールしました。

また、資金面ではデベロッパーや投資家の開発に頼らず、実際に人々が自ら少しずつ投資を積み重ね、クラウド投資としてエンジニアや企画部門、弁護士など、このプロジェクトの構成に必要な資金を調達しました。最終的に銀行から住宅ローンを受けるのはとても大変でした。「50世帯以上を対象とした大きなプロジェクトを作りインフラまで整備して、あなたたちは何者なのか?一般の人々の集まりで、開発者のプロでもなければ、投資家のプロでもない」と。個人レベルでは非常に高いローンを提供してもらい、集団内で全てのお金を使うというこれまでに見たことのないようなことをするわけですから、銀行が神経質になることは理解できるでしょう。それにもかかわらず、私たちの作成した書類やオランダでの参考プロジェクトに信頼を寄せてくれ、銀行が私たちをバックアップし、プロジェクト実現へのサポートをしてくれたのです。

住むほどに価値を感じる社会的ネットワークのある暮らし

私たちが信じているのは、地域に良い影響を与えるプロジェクトを作り、自分たちで消費するよりも多くのエネルギーを提供することで、近隣住民にもエネルギーを与えることができるということです。また、インスピレーションを与えるプロジェクトであればこそ、人々が誇りを持って自分が街の一部であると感じ、最終的には都市をより包括的で自立したものにできると期待しています。政府のシステムによって家を与えられるのを待つのではなく、市民が強い市民意識を持ち主体的にどのように暮らすかを考えることで、自分たちの生活の権利を取り戻せると信じています。私は自分たちの力でできることは、もっともっとあると思っています。同時に、私たちはプロフェッショナルとして、人々にツールを与え、知識を与え、プロセスを与え、皆さんのバックアップもしなければとも思っています。今後10年でやりたいことは、地域全体の構築、アパートメントの区画・働く区画があり、人々といつも一緒に働いて暮らし、彼らが使う場所をより楽しいものにしたいと思っています。

世界中の人々に、ノウハウを活用してほしい

このプロジェクトを現実のものとするために、多くの知識を得てきました。それはもちろん、グループ内のソーシャルキャピタル、つまり居住する皆さんの才能や知識、使える時間を分け合いながらプロジェクトを具現化してきたのですが、私たちはこの知識をグループの外、schoonschip.orgというオープンソースの知識ベースに開示する予定です。このウェブサイトにアクセスすることでインスピレーションの源となり、同様のプロジェクトが実現できるよう生かしていただきたいと思っています。 また、アムステルダムのような物価の高い都市で生活するための代替手段として、Schoonschip地区にコミュニティハブを設置し、情報共有やワークショップなどの機会を設けて外部からのアクセスを可能にしています。

正解はひとつではない、方法は無限にある

社会に向けて皆さんにお伝えしたいことは、包括的な都市、持続可能な自己支援型の都市をつくるにはたくさんの方法があるということです。市民に権限を与え、市民のコミュニティに権限を与えて、どのように一緒に暮らしたいか・働きたいかを整理し、自分の直感、信念、エネルギー、知識を使えば、自分の周りの人々と一緒にプロジェクトを作り上げることができます。プロセスを導き、スポットライトを浴びて野心を持ち、無形の夢・無形のイメージを可視化して最終的にプロジェクトを構築することが、私たちがプロとして行なっている仕事です。